by 成松一郎
コロナ禍では長い間、対面式の視覚障害関連展示会が開催されませんでしたが、今年から「予約制」で参加人数をしぼったり、「感染対策」をきっちりとるスタイルで、地域での機器展や相談会などが復活しています。(読書工房は、今年、福島・仙台・福山・福岡などで出展しました)
いま展示会でおもに二つの商品を実際にさわっていただき、直販などを行っています。
一つは、凸面点字器「トツテンくん」です。従来の点字器は、右から左に点字を書き、書き終わったら、一度紙をひっくり返して、点字を読む方式になっています。
つまり、点字を「書く形」と点字を「読む形」が鏡文字のようにひっくりかえっているのです。
(点字の1マスは、横2×縦3の6つの点で作られていて、たとえば、「ア」は「書く形」では、右上の点になりますが、「読む形」では、左上の点になるのです。これを「ウラ打ち」とよんでいます)
しかし、凸面点字器は、「読む形」とまったく同じ形で、点字を「書く」ことができるので(「オモテ打ち」とよばれています)、中途で視覚障害になり、これから点字を覚えようという点字学習者にとっては、覚える「形」が一種になるので、ハードルが下がるわけです。
もちろん、小中学校などの「総合的学習」の時間や、大学・専門学校の「介護技術」の授業などで「点字」を扱う際にも、限られた時間数の中で学習しなければならないので、凸面点字器はとても便利だと思います。
もう一つは、原田良實(はらたよしみ)著『ひとりで学べる点字触読テキスト』です。原田さんはもともと名古屋市の公共図書館員でしたが、1970年代に、中途視覚障害の方への点字触読指導をはじめ、試行錯誤の末、「め」(6つの点すべて使う)という文字から覚えるスタイルの、いわゆる「原田方式」を確立させました。
じつは、読書工房を創立した2004年(平成16年)10月に、この原田良實さんと澤田真弓さんの編著『中途視覚障害者への点字触読指導マニュアル』を出版し、いまでも販売を続け、18年にわたるロングセラーとなっているのです。
ではなぜ新しい本を出版することになったかというと、毎年、全国盲ろう者大会に出展していたところ、必ず複数の盲ろうの方から点字を勉強できる本はないか、点字器はないかという質問を受けていたのです。
じつは盲ろうの方は、ろうベース(最初に聴覚障害になり、あとから視覚障害になる)の方が多く、手話ができても、点字を日常的に使えるという方はそれほど多くありません。
ろうベースの方は、触手話や接近手話、あるいはFM補聴器を使ったサポートを受けていますが、近年「ブレイルセンス」といった盲ろう者にも使いやすいICT機器が開発され、それを使うために点字を習得したいというニーズが高まってきたようです。
そこで、原田先生にご相談し、何年かの歳月を費やして、まったく新しい「原田方式」による点字触読を独習するための教材ができました。
この教材は、墨字(活字)の本と、点字教材(48枚)を綴じたバインダー、点字一覧表がセットになっています。
また、墨字(活字)の本には、QRコードがついていて、スマホで音声読み上げさせることもできます。
※ここから、音声版(サンプル)を聞くことができます。
展示会で出会う方々の中には、進行性の病気のため、ある程度見えているうちに「点字」を覚えておきたいという方が少なからずいらっしゃいます。もちろん、音声を活用できる方は必ずしも点字を使わなくても日常生活において不便はないかもしれません。
でも複数の手段を使えるようにしておきたいという考えの方も少なからずいらっしゃって、点字の本が読めるようになるにはかなりハードルが高いにしても、家電製品や、電車のドアやエレベーターについている点字は読めるようになってみたい。冷蔵庫に入れるものに点字シールを貼って区別してみたいといったニーズをお持ちの方もいらっしゃいます。
タイトルに「ひとりで」とつけていますが、必ずしも、すべてひとりで勉強しなければならないのではなく、周囲の方にもよびかけて、コミュニケーションを図りながら、点字触読を少しずつ楽しくマスターしてみるのもよいのではないでしょうか。